遠い夕焼け 6

伊藤巡査は大祐と同じ位の歳の警察官で、たまに巡回する事は以前にも在ったがこう頻繁には最近の事で、しかも透子とでは無く樹枝と暫く話をして帰って行くのだ。

何処か大祐に似たこの巡査の優しさがいつの間にか彼女は大好きになっていた。

彼女は全く分かって無かった事だがその頃樹枝の周辺で確かに何かが蠢いていたので在る。

   「はい、今度は風呂敷で包んだからおんぶすっぺ。」

と米の入った風呂敷包みが時雄の手で背中で袈裟懸けに付けられその先が胸の前でしっかり縛られた。これで今度は落とす心配が無くなった。

今度も「滑らないよう気ーつけてなぁ。」

と時雄に送られ店を出た。

大きな安堵感が彼女を包んでいる。

やっと家に帰れる。子供らしくそう思って空を見上げた。

さっきよりも雪の雲が重く垂れ込めている。

そうだ!土手の道が滑るので気を付けて歩いたから遅くなったと言えばいいや。

透子に実に子供らし言い訳を思いついた。名案だと彼女はニコニコしている。

同時にふっと思った。

さっき米屋のおじさん、後で父ちゃんと話しするって言ってたな。

このまま何も話さないで済む筈無いよな。当たり前だよな。とそう感じて居るのだが、そこには、急 少し怖さも感じてたのは本当の事だ。

凍てつくような寒さを忘れていた。寒い、急いで帰ろう!

樹枝が家に帰って間もなくやはりまた雪となり、其れは粉雪となって吹き出した風に追われ、次第に凄い吹雪に変わりそれから一晩中降り続いた。

其れが嘘のように止んで、晴れた翌朝には平地で三十センチを超える積雪を見た。

そのおかげであの泥道に落とした汚れた米を何日か隠してくれた訳で、雪が溶けたら直ぐ雀や野鳥が全て掃除をする。

樹枝の小さな胸を一杯痛めたあの辛い事実は透子に発覚する事無く済んだのである。

                        

      由美子はそこで目を覚ました。

警察学校に入学して暫くした頃から時折見るようになっていた。

頬っぺたを触るとやはり涙で濡れている。

何時もそうだ。

悲しくて堪らない。

長い夢の様にも思えるけどそうでも無いのかも知れない。

あの寒さ、つま先がジンジンと冷えてそしてあの痛みとつらさ。

何回見ても臨場感が有った。

これまで関わって来た案件にはこんな子供は居なかったし、こんな話しを子供の頃から今までに誰からも聞いた覚えも無いしな。

それなのに何故繰り返し見るのだろう。

                                                     

                        続く