2024-02-01から1ヶ月間の記事一覧

遠い夕焼け 9

ん、あ、由美子は声を上げた。 「先輩、大丈夫ですかぁ〜?起きて下さいよう〜。」 本山の声に目が覚めた。 夢を見たんだな、と、そう分かった。 「おい、本山、もう少し寝かしてやれよ。」と後部座席から気だるそうに迫田が声をかける。 「だって、苦しそうで〜…

遠い夕焼け 8

「何やってんだよ!行くのか、行かないのか!」 と語気が荒くなって来ている。これ以上は待てない。思い切って切り出した。 「あのね、母ちゃん、ズックに穴が空いててね、新しいの買って欲しいの。」 心臓が口から出ちゃうんでは無いかと思う気持ちだった。 「な…

遠い夕焼け 7

関東の何処かの県、あの訛りは茨城県とか栃木県辺りだろう。 しかも今では無く、かなり前の話だと思うが樹枝に訛りが無いのは何故だろう。枯れた利根川水系の街。うーん。はて? そう言えば雅子言ってたな。「それって、由美子の過去世なんじゃないの?」 伊…

遠い夕焼け 6

伊藤巡査は大祐と同じ位の歳の警察官で、たまに巡回する事は以前にも在ったがこう頻繁には最近の事で、しかも透子とでは無く樹枝と暫く話をして帰って行くのだ。 何処か大祐に似たこの巡査の優しさがいつの間にか彼女は大好きになっていた。 彼女は全く分か…

二つの親

坂木田美野沐 虐め 世間は無常に陥る事は多々有る。大人では其れも熾烈極めるが其れは子供の世界でも同じであり、時によっては大人の世界よりも辛辣である。今目の前にいるこの子供に私はどうしたら生きる勇気を引き出し、希望を持って学校生活を送る事をさ…

遠い夕焼け 5

彼女の顔から瞬時に血の気が引き、同時に胸が高鳴り、どっと涙が溢れ出た。 しゃがみこんで必死に米をかき集めてみた。 だが米はどんどん泥化し、どうして良いのか皆目分から無くなってしまった。 既に落とした袋は破けているし、米を持って帰って洗って使う…

遠い夕焼け 4

その時、店主の息子である兄ちゃん事、時雄(ときお)が気が付いて飛び出して来てくれた。 彼女の泥だらけのズックに驚き声をかけた。 「きっこちゃん、どうしたこんな日に。」 「寒かったべ?、あ、お米かな。?」 その問いかけにビクッとしたが咄嗟に頷け…

遠い夕焼け 3

それからしても透子の行動は常軌を逸しているのは間違いの無い事だ。 樹枝がこの買い物を少し渋った時、透子から言われた事は、 「行かないのか!お前は弟や妹が腹空かして泣いてもいいんだね!」だった。 これはどうしても言う事を聞かざるを得なくすると云う…

遠い夕焼け 夢 2

其の工事が始まるのはそれから十年も先の事となるので在る。高いと誰でも思う坂である。大人でも嫌だと思うのだから彼女には尚更に違いない。だが、其れはその歩きにくい道のせいばかりでは無かった。何も持たずに買い物をする。それがどう言う事なのか。そ…

遠い夕焼け 1

美野沐(みのう) 第一章 夢少女は未就学児に見える。何回も見ている夢ではあるが見えると云うのはきっと適当な表現では無いので在ろう。だが、この少女は決して自分では無いと、由美子(片品由美子。かたしなゆみこ 28歳。青梅西警察署捜査課、小杉班配属、巡…